乗車から降りるまで
簡単な流れの説明
いざ列車に乗ろうとしても、乗客の数がハンパではない中国鉄道では、安全運行を守るためにさまざまなルールが設定され、全て彼らのルールに従わなければいけない。その代表的な事例が、ホームへの出入り自由の禁止。乗車する列車が到着するまでホームへ移動することは許されず、乗客は待合室である候車室で待っていなければいけない。さらに駅入り口から候車室に至るまで、さまざまな手続きや検査が待っており、通過に余計な時間をかけてしまうことも。そのため駅には、少なくとも乗車1時間前には到着しておいた方が、後々大変な思いをしないですむからだ。
巨大な駅舎は、列車と乗客のターミナル

その巨大な内部は、列車を利用する多くの乗客を収容するために、いくつもの巨大な「候車室」(待合室)を持ち、お土産や旅行中の食料品を販売するショッピングセンターや、旅行前の小腹を満たしてくれる大衆食堂、気軽に利用できるビジネスホテルなども入っている。なかでも大都市の駅には、ケンタッキーやマクドナルド、真功夫、吉野家(北京西駅、瀋陽北駅)、大快活(広州東駅、深セン駅)など、中国国内で展開しているファーストフードの進出が目立つようになった。
駅前広場はタクシー乗り場や公共バスターミナルのほか、地下鉄駅も併設され、交通機関の総合ターミナルを示す活況を見せてきたが、切符が買えなかった人民たちが駅前で寝泊りするケースも目立ち、治安を守るため公安や警備員が巡回している。明るいうちに駅に入ったほうがいい。
空港並みに厳しい荷物検査
駅の入り口は駅舎の中央に「進站口」と表記された看板の下にあり、必ずそこから入らなければいけない。駅舎は大きいが入り口は小さく、たいてい建物の中から列ができているのですぐに分かる。また、駅によっては、不正乗車を取り締まるため、切符検査の実施を行なっている時もある。入り口をくぐると、金属探知機と荷物のX線検査が待っている。なかでも、X線検査は空港並みに厳しく、列車内に持ち込みが禁止されている火薬、花火、爆竹、有毒物などの可燃物を取り締まっているが、普通の旅行客なら引っかかることはまずない。
待合室の一角にある掲示板には、列車事故防止一環のキャンペーンとして、可燃物による列車事故の凄惨な無修正写真が何枚も展示している。かつて、無知な乗客たちが可燃物を危険物と認識できず、そのまま車内に持ち込んでしまい、相次ぐ列車事故を引き起こした結果が、現在の検査の原因となっている。中国鉄道ではこういった過激な警告キャンペーンを敢えて行なうことで注意を促している。また、ここ数年前から一部の大都市では春節を祝う花火や爆竹の使用が解禁されており、春運時のX線検査はピリピリとした雰囲気で行なわれている。
そして、駅入り口や切符売り場で、鉄道公安が不審者を取り締まるため、抜き打ちの身分証のチェックも行なうケースも増えてきた。本人の身分だと証明できるもの(外国人ならパスポート)を持参していれば問題ない。荷物検査を終えて、列車を待つ候車室に向かうことになる。
巨大な迷路の候車室

大都市の駅では広い面積を持つ候車室がいくつも設置され、その候車室ひとつひとつが巨大な空間となっており、何千人もの乗客を飲み込んでしまいそうな候車室がいくつもある。室内は乗客を整列させるかのように、迷路のごとく配置されたプラスチックのベンチが、タテ状に奥までそれぞれエリアごとに区分けしており、その先にはホームに繋がる改札口がある。そしてどの列車はどこの列で待っていればいいか、表示案内が出ている。列車番号を確認して、改札が行なわれるエリアに移動し、改札口手前に陣取ろう。
Z13次 上 海 5候車室
Z 7次 上 海 6候車室
T65次 南京西 3候車室
候車室内には、売店が設置されているので、食料はここで買っておく。市内のスーパーより若干高いが、列車内で買うともっと高くなるからだ。また同室内にいる人は乗客ばかりとは限らず、スリや置き引きを目的としている輩もいるので、荷物管理はしっかりと。トイレに行く時その場から離れてしまう場合、周りの人に荷物を見てもらうように頼んでおく方法もある。Z 7次 上 海 6候車室
T65次 南京西 3候車室
候車室には、妊婦や親子連れ専用の母嬰候車室や兵隊専用の軍人候車室、有料の茶座室(10元〜)、そして軟席切符を持っていれば利用できる軟席候車室など、様々な種類がある。
軟席候車室、CRH候車室

また、07年より動車組こと、D列車の登場後、同列車が停車する駅では「CRH和諧候車室」と書かれた専用の候車室を設置するようになった。設備は軟席候車室より若干劣るが、普通の候車室よりはずっとマシ。ただ、これらの列車が多く発着する北京や上海などでは、軟席候車室などにも人が溢れ、座席に座れず空席を待つ乗客が目立つようになった。
改札開始、気合と根性で列車に乗車

改札の開始からから先は、気合と根性が求められる。改札が始まると、人民を中心とする乗客はわれ先と改札口に殺到する。改札を通過したらホームへ真っ先に目指そう。周りの人民も一緒に走っているがこれには理由がある。それは日本とは違い、人民の持っている荷物が半端な量ではなく、のんびり乗車すると後で車内の網棚の荷物スペースがいっぱいになってしまうからだ。
中国の駅では、混乱と不正乗車を防ぐため、ホームに向かう道と、ホームから駅出口に向かう道は、それぞれ違う場所を通るように指定している。また、乗客がいない場合、鍵を施錠してしまうこともある。
ホームに着いたら、切符で指定された車両に向かう。各車両の入り口には乗務員が立っており、切符を確認してから中に入れてもらえる。乗車する人数が決まっている寝台車両は混乱もなく乗車できるが、座席の硬座車には乗客が殺到、秩序も和諧もない混沌とした争いが繰り広げられ、ここは強行突破で列車に乗り込むことになる。また、発車5分前に改札が打ち切ってしまうため、遅れて列車に飛び乗ることはできない。香港行き長距離列車は発車20分前に改札を打ち切ってしまうので要注意。
IC切符の登場

広深鉄路を例に挙げると、この切符の下半分は、ICチップが埋められており、入場1回、出口1回のみ使用できる。そして使用された切符は、回収箱に入れておしまい。出張で列車を使った場合、切符自体が発票(領収書)になっているため、回収されると困ると思いがちだが、出口付近に発票発券機が設置され、そこの機械に切符をかざせば、レシート状のひと回り小さい領収書が発券され、これを交通費として請求できる。IC切符自体は発票の効力を持たないので、持ち帰っても意味がない。また、特殊切符なため、折り曲げたり、濡らしたりしないようにしよう。エラーを引き起こして出口で出られなくなるケースもある。
いっぽう、京津城際鉄路と上海動車組エリアでは切符のデザインが広深鉄路と違い、切符そのものが磁気カードとなる。こちらは自動改札機に入れるとゲートが開く。これらの切符は、自動改札機のない駅では鋏を入れられるが、到着駅に自動改札機があっても問題なく通過できる。
座席車はサバイバル
座席車とは、一般的に硬座車を指すことが多く、車両は乗客をすし詰めにして運ぶ思想で設計されているため、ゆとりなんかとてもない。また料金が安いため、車内はいつも混んでおり、列車のランクが落ちれば落ちるほど、乗客の民度も下がっていく。一番分かりやすいのは彼らが床に捨てるゴミの量。発車後30分もすれば、ミカンの皮やサトウキビのカス、ヒマワリの種の殻など、床下にゴミがどんどん増えていき、担当乗務員が毎回掃除を行なっているものの、すぐにゴミは溜まりだす。また、禁煙なのに平気でタバコを吸っている乗客や、ところかまわず床に痰唾を吐く乗客、子供にその場で用を足させる親など、公共物に対するモラル意識はゼロに近く、不快感になってしまうほど不衛生。
さらに途中駅に停車すると、無座切符を持つ乗客が多く乗り込み、車内はますますごった返し、当然治安も悪くなる。スリや置き引きに注意を払うのは当然、夜行の場合、眠るときも貴重品には十分な管理に気を使わなければならない。トイレに出かけたら知らない乗客が座っていても、強気でどかす気構えでいないと、いつになっても座れない。こちらがずうずうしくならない限り、座席車内では生き残れないのだ。
ゆとりある寝台車で快適な旅を
寝台車は決められた定員以外は乗車できないため、満席になっても、それ以上増えることはないため、自分のスペースが脅かされるという心配はない。しかし、誰が相部屋になるかは乗車してみないと分からない。ベッドはシーツカバーがかかっており、自分でする手間が省かれる。またベッドごとの仕切りのカーテンはないので、着替える場合、同室の人に外に出てもらうかトイレの中で行なうことになる。
列車が発車して10分ぐらいたつと、担当乗務員が手持ちの切符と引き換えに、「換車票」というプラスチック、もしくは金属の札でできた座席表を渡される。この座席表は乗車の証明書となるので、肌身離さず持つように。車外で紛失すると、再乗車を拒否され、荷物だけが終点に行ってしまう最悪な事態も十分に起こりうるのだ。次に乗客の身分証明書のチェックが行なわれる。乗客の氏名、番号などが台帳に書き込まれ、これは、乗客の保護と監視をあわせた意味を持っている。
寝台車のベッドには読書灯が設置され、横になり本も読めるほか、優等列車の軟臥には各ベッドに液晶モニターが設置され、DVD鑑賞も楽しめる。昼間、ベッドの下段は、みんなで座ることもできるし、一人で占有することも可能だが、ここは譲り合いをしてみては。これがきっかけで、知らない乗客同士の交流が生まれ、仲良くなれば、さらに列車移動が楽しくなるだからだ。
夜間の消灯時間は、座席車の場合、治安の問題などがあるため行われず、コンパートメントの軟臥クラスは独立しているため、各自消灯を行う。車両全体がオープンになっている硬臥車のみ消灯時間が設定され、通常22:00となる。
途中駅編
列車は一部を除けば給水や機関車交換などで必ず途中駅に停車することになっている。停車中、ボームに下りて新鮮な空気を吸ったり、体を動かしたりしてリラックスしよう。ホーム上では物売りや駅弁のリアカーが軒を連ね、車内より安い価格で発売してくれる。面白いのが長沙をはじめとする湖南省内の駅。おかずが詰まった容器はなんと焼き物。日本の峠の釜飯をほうふつさせる。途中停車時間は列車によってまちまち。優等列車なら長くても8分、D列車などは1〜2分と非常に短く、途中下車するなら、駅到着前にあらかじめ扉の前まで移動しておくに越したことはない。
終点に到着
列車が駅に到着する時、乗務員はどの時間帯でも、到着30分前には告げに来る。そして寝台なら車換票と切符を交換する。車内で忘れたものは、再び自分の手元に戻る確率は低いので、降りる準備では車内に忘れ物がないかを要チェック。駅に到着した後、乗客は「出站口」と指定された出口に向かうこととなる。ホームで撮り鉄をしていてもいいが、不審者と思われる危険性もあり、長居は無用。さっさと撮影を済ませよう。
出口で駅職員に切符を見せる。切符の角を破かれるが、回収はされない。中国の切符自体は領収書にもなり、会社での出張時などに領収書として使用するからだ。ようやく列車の旅も終了。しかし、宿の客引きや、タクシードライバーたちが多く待ち構えているので、気合を入れて強行突破。そして次の旅プランを考えよう。
覚えておくと便利な中国語
中国語 | 日本語 |
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汽車 qiche | 自動車 |
火車 huoche | 列車 |
站 zhan | 駅 |
站台 zhantai | プラットホーム |
票 piao 火車票 huochepiao |
切符 |
站票 zhanpiao | 無座、立ち席 |
站台票 zhantaipiao | 入場券 |
售票処 shoupiaochu | 切符売り場 |
候車室 houcheshi | 待合室 |
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